東京から移転のクラフトビール会社が始めた「山梨応援プロジェクト」 地元の農産物とコラボを続け、魅力を発信

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最終更新日: 2024.02.26

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東京から移転のクラフトビール会社が始めた「山梨応援プロジェクト」 地元の農産物とコラボを続け、魅力を発信

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山梨県小菅村のクラフトビールメーカー「Far Yeast Brewing株式会社」が2020年夏から始めた「山梨応援プロジェクト」がもうすぐ3年を迎える。

きっかけはコロナ禍の経済界への打撃。飲食店の営業が規制され、消費者へインターネットなどで直接販売をする必要に迫られた。そこで、山梨の農作物とコラボしたクラフトビールを商品化するプロジェクトを企画したところ、事前予約の段階で完売し、企画商品は人気を博している。

ただ、当初からコロナ禍を一時的に乗り切るためのプロジェクトとは考えていない。同社の山田司朗社長は「長期的に、山梨の魅力を掘り起こし、発信していきたいと思って取り組んでいます」と語る。余ってしまった農作物を使う”アップサイクル”を意識している点も、地元生産者やユーザーの共感を呼ぶ。

東京から移転してきた同社が「応援したい」と感じた山梨の魅力や、プロジェクトの手応えはーー。山田社長に話を聞いた。

※写真は全てFar Yeast Brewing株式会社提供

Far Yeast Brewing株式会社のHP:https://faryeast.com/

山梨応援プロジェクトの一幕。「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー」協力のもと、摘房されたワイン用ぶどうを使ったクラフトビール「Far Yeast Grapevine(ファーイースト グレープバイン)」を醸造した(左から2番目が山田司朗社長)。

元々は東京に拠点、山梨移転のワケは

Far Yeast Brewing株式会社は、2011年に「日本クラフトビール株式会社」として設立された。当初は東京に拠点を構えていたが、2017年に山梨県小菅村に初の自社工場「源流醸造所」を立ち上げ、2020年10月には本社機能を小菅村に移転した。自身は愛知県出身で山梨にはゆかりのなかった山田社長も、東京から山梨県内に移住した。会社としても個人としても、一歩一歩、山梨に根ざしてきた。

移転先を探し始めたのは2015年。当時は本社機能が東京にあり、顧客も東京や海外が多く、まずは関東圏に工場を立ち上げたいと考えていた。東京からの距離も近く、自然が豊かで、非常勤取締役が甲府出身であったことも相まって、山梨を選んだ。

だが、なかなか工場として理想の物件が見つからない…。困り果てて県庁に相談した結果、小菅村の廃工場が見つかり、そこを工場拠点に選んだ。豊かな自然に囲まれ、多摩川の源流が流れる小菅村はビール生産の地にもってこいだった。山田社長は「ビール造りにおいて、水や空気などの周囲の環境は非常に重要。丹念に探した結果見つけた秘境の地です」と振り返る。

山梨県小菅村にある自社工場「Far Yeast Brewing源流醸造所」
醸造所内の様子。ビールを醸造するための仕込み釜が並ぶ。

工場を構え、いざ山梨でのクラフトビール生産活動を始めると、山梨の良さを感じる機会が増えていった。2018年、地元のフルーツを使った商品を開発したところ、購入者たちからの反応は好調。自然の恵みを身をもって感じた。

そして、人の温かさ。県内のトレードフェアで出会った生産者をはじめ、移転先の小菅村の住民は、山梨への新規参入した同社を快く受け入れてくれた。

気づけばすっかり山梨に愛着を抱いていた。だが、2020年、新型コロナウイルスが日本経済に猛威を振るった。

プロジェクト始動 第1弾商品は事前予約で売り切れの人気っぷり

新型コロナウイルスが猛威を振るい、各業界への打撃は甚大だった。当初はクラフトビール業界も例外ではなく、外出自粛や会食自粛の煽りを受けた。同社が工場を構える山梨県もイベントの中止などにより観光客が減少し、経済が落ち込んでいた。地元の生産者たちも、出荷先がない農作物を抱えて悩んでいた。

「なんとか盛り上げることはできないか」

たどりついたのは、クラフトビールを通じて、山梨の魅力を発信すること。それが自分たちにできる最善の策だった。せっかくやるのなら一過性ではなく、長期的に継続したものを。さらに言えば、本来なら捨てていた原料を使う”アップサイクル”な、持続可能な取り組みとして。

こうして始動した山梨応援プロジェクト。第1弾では、過去にもコラボしたことのある山梨市の桃農家「ピーチ専科ヤマシタ」の桃を使ったクラフトビール「Far Yeast Peach Haze(ファーイースト ピーチヘイズ)」を手がけた。

Far Yeast Peach Haze

きっかけは、 2018年に県内のトレードフェアでピーチ専科ヤマシタの山下一公社長と出会い、意気投合したことだった。ピーチ専科ヤマシタの農園で収穫した桃の中で、規格外などの理由で一般市場では販売できずに余っていた桃を使っている。

結果は予想を超える反響だった。2020年7月17日からオンラインでの予約販売を開始する予定が、予約の段階で完売してしまった。ユーザーからの人気っぷりに山田社長も驚いたという。なお、2021年に販売した時には前年の2倍の量を用意したが、やはり予約段階で完売した。

ピーチ専科ヤマシタの山下一公社長(右)と山田司朗社長

反響は広がり、「うちのものも使ってくれないか」と言う県内の生産者の声も飛び込んでくるようになった。アップサイクルに対しても快く賛同してくれる生産者が多かった。

企画商品のリリースは続いた。

小菅村の梅を使った「Off Trail Ume-kin’Me Crazy(オフトレイル ウメキンミークレイジー)」、甲州市のぶどうを使った「Far Yeast Grapevine」、北杜市の米を使った「Far Yeast もりともり RICE ALE」など、地元の農作物を使い続ける。これまでに7銘柄を計12回にわたりリリース。5月23日正午にも、オンラインで「Peach Haze」の新作が発売される予定だ。

山田社長は「地元経済に根差した生産物の活用や地元の魅力発信が、お客さまから大きな共感を得ることを再認識した」と話す。

Far Yeast Grapevine
Far Yeast もりともり RICE ALE

会社としても手応え、さらなる魅力発信へ

山梨応援プロジェクトの始動からもうすぐ3年。

山田社長は「多様性や実験的な要素がクラフトビールの魅力であるが、『山梨応援プロジェクト』はその魅力の中でも、アップサイクルや地域経済などのニーズが大きいことを再確認する、重要な機会となった」と手応えを感じている。

フレッシュホップを使ったビール「Far Yeast Farm to Brew」でコラボした小林ホップ農園の小林吉倫さん(右)と山田司朗社長

一方で、「クラフトビール業界の盛り上がりは喜ばしいことではあるが、飽和状態の市場に危機感を覚えることもある」とも話す。

既存の顧客のシェアを奪い合う大手ビールメーカーとは異なり、クラフトビール業界では商品の背景や会社独自の取り組みといった独自の魅力を発信することで個別に顧客を獲得することが求められる。

しかし、飽和した市場において独自の魅力を発信し、商品のファンを獲得することは容易ではない。その中で、山梨応援プロジェクトの実行、そしてその反響は同社にとって貴重な経験となったようだ。

「美味しいビールを造れば売れる時代は終わった。クラフトビール業界では、市場においてユニークなポジションを築くことが重要になっている。だからこそ、地元経済とのつながりやアップサイクル、日本発のビールを海外に発信、といった点に改めて着目していきたい」(山田社長)

クラフトビールを通じて山梨の魅力を世界へ発信し続ける同社は、クラフトビール業界においてどのようなポジションを築いていくのであろうか。今後の展開にも目が離せない。

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